ポメラニアンは、家の外を通る人や小さな物音にすぐ気づきます。インターホンが鳴ると吠え、来客が入ると飛びつき、飼い主が止めようとするほど興奮することもあります。
この反応を「気が強い」「落ち着きがない」とだけ捉えると、しつけの方向を間違えます。
ポメラニアンは、もともと注意深く、家庭の番犬にも向くとされる犬種です。周囲の変化に気づくこと自体を完全になくすのではなく、気づいたあとに飼い主を見る、マットへ戻る、四つ足を床につけるという次の行動を教えることが重要です。
また、小さな体だからと、吠えるたび、怖がるたびに抱き上げると、自分の足で落ち着く経験を積みにくくなります。安全を確保しながら、地面で人や犬との距離を調整する練習も必要です。
この記事では、吠え、興奮、飛びつき、トイレ、散歩、甘噛み、留守番、ブラッシングなど、ポメラニアンと暮らす中で起こりやすい悩みへの向き合い方を解説します。
注意:本記事は一般的な情報提供を目的としています。咳が続く、呼吸が苦しそう、急に足を上げる、触ると怒る、行動が急に変わった場合は、しつけの問題と決めつけず、獣医師へご相談ください。

ポメラニアンのしつけで知っておきたい気質
ジャパンケネルクラブ(JKC)は、ポメラニアンを「番犬及びコンパニオン・ドッグ」としています。性格については、常に注意深く活発で、主人への忠誠心が強く、学習能力が高く、訓練しやすいと説明しています。【出典:ジャパンケネルクラブ「ポメラニアン」】
この特徴は、しつけにもそのまま表れます。
① 周囲の変化に気づきやすい
玄関の気配、窓の外の人、ほかの犬などへ素早く反応することがあります。気づく前にすべてを止めるより、反応したあとに戻る場所や行動を教えるほうが現実的です。
② 人の反応を学びやすい
吠えると抱かれる、前足をかけるとなでられる、食卓のそばで待つと食べ物をもらえる。望ましくない行動も、結果が伴えば学習します。
③ 活発で、興奮の切り替えが必要
遊びや来客で気持ちが高ぶると、飛びつきや吠えが続く場合があります。興奮の頂点で押さえ込むのではなく、早めに休憩し、落ち着いた状態から再開します。
④ 小さいため、しつけが後回しになりやすい
引っ張られても制御できる、飛びついても危なくないと思われがちです。しかし、体の大きさと生活上のルールは別です。子犬のうちから基本行動を教えます。
ポメラニアンの性格や番犬としての背景は、ポメラニアンの性格と特徴で詳しく解説しています。

しつけで大切な5つの基本方針
① 望ましい行動をすぐにほめる
犬は、行動の直後に起きた結果から学びます。名前を呼ばれて見た、静かに待てた、四つ足を床につけたという瞬間に、短いほめ言葉と報酬を与えます。
PDSAは、報酬を行動中または直後に与え、犬が行動と結果を結びつけやすくするよう案内しています。【出典:PDSA「Reward-based training for dogs」】
② 禁止ではなく、代わりの行動を教える
- 吠え続ける代わりに、マットへ移動する
- 飛びつく代わりに、四つ足で立つかおすわりする
- 玄関へ走る代わりに、飼い主のそばへ戻る
- 手を噛む代わりに、おもちゃを噛む
「ダメ」だけでは、犬は何をすればよいか分かりません。してほしい行動を具体的に教えます。
③ 失敗しにくい環境を作る
窓の外へ反応するなら視界を遮る、玄関へ突進するならベビーゲートを置く、噛まれたくないものは片づける。環境で防げる失敗は、先に防ぎます。
しつけは、犬が失敗したあとに修正する作業だけではありません。成功できる状況を作ることも含まれます。
④ 練習を短く区切る
1回数分の練習を、生活の中で何度か行います。覚えが早くても、興奮や疲れで反応は変わります。成功したところで終え、次の練習につなげます。
⑤ 家族の言葉と対応を統一する
ひとりは要求吠えに応じず、別の人がおやつを与える状態では、「長く吠えれば誰かが応じる」と学習します。指示語、してよいこと、要求されたときの反応を家族でそろえてください。
子犬期の社会化と体に触れる練習
環境省の資料では、生後3〜16週ごろを、さまざまな刺激を受け入れやすい社会化期としています。この時期は、おすわりの完成度より、人、動物、音、場所、体に触られることへ穏やかに慣らすことが重要です。【出典:環境省「動物の適正譲渡における飼い主教育」】
慣らしておきたいもの
- 人:家族以外の大人、子ども、帽子やマスクを着けた人
- 音:インターホン、掃除機、車、工事音、雷
- 場所:動物病院、車、エレベーター、散歩道
- 犬:健康状態が確認できる、落ち着いた相手
- お手入れ:ブラシ、耳、口元、足先、爪、被毛を分けて皮膚を見ること
ポメラニアンは豊かな被毛を日常的に手入れする必要があります。ブラシを見せておやつを与える、体へ軽く当てる、一回だけ動かすという順番で慣らします。最初から全身を仕上げようとしません。
怖がっている犬を、人や犬へ無理に近づけることは社会化ではありません。刺激から距離を取り、おやつを食べられる程度の余裕を保ちます。ワクチン完了前の外出方法や犬との接触範囲は、かかりつけの獣医師に相談してください。

吠えへの対策は、原因を分ける
吠えは、警戒、興奮、要求、退屈、不安など、さまざまな理由で起こります。RSPCAも、吠えが増えた場合は原因を確認し、窓から見える刺激を減らすことや、吠える前に別の行動へ切り替える方法を案内しています。【出典:RSPCA「How To Stop Your Dog Barking Too Much」】
インターホン・来客への吠え
まず、インターホンの音量を下げる、玄関や窓へ自由に近づけないようにするなど、刺激を弱めます。
練習では、録音した小さなインターホン音を流し、犬が吠える前におやつを与えます。次に「音が鳴る→マットへ移動する→報酬」という流れを作ります。音量は、犬が落ち着いていられる範囲から少しずつ上げます。
本番の来客時だけマットを使っても、犬には伝わりません。普段からマットへ行く、伏せる、数秒待つ練習を行います。
窓の外や散歩中の犬への吠え
吠える対象へ近づけて慣らそうとすると、反応が強くなる場合があります。まず距離を取り、相手を見てもおやつを食べられる位置まで離れます。
相手を見たあと飼い主へ視線を戻せたらほめます。慣れてきたら、少しずつ距離を調整します。食べ物を受け取れない、体が固まる、前へ突進する状態では近すぎます。
要求吠え
遊び、おやつ、抱っこを求めて吠える場合は、吠えている最中に要求をかなえません。短く静かになった瞬間に、おすわりやマットなど別の行動を促してから応じます。
ただし、トイレ、水分、空腹、痛み、不安といった必要な世話まで無視しないでください。要求吠えと体調・生活上の要求を分ける必要があります。
留守番中の吠え
留守番中だけ吠える場合は、分離に関する不安が背景にある可能性があります。録画して、歩き回る、震える、よだれ、破壊、排泄などがないか確認します。
吠え声を罰する機器は原因を解決しません。留守番時間を短い段階へ戻し、症状が続く場合は獣医師や行動の専門家へ相談します。

興奮と飛びつきを落ち着かせる方法
四つ足が床についている瞬間をほめる
飛びついた犬を抱く、前足を持つ、大きな声を出すと、犬にとっては注目を得られたことになります。
- 飛びつく前に、おすわりや四つ足で立つ行動を促す
- 四つ足が床についていたら、静かにほめる
- 飛びついたら、来客や家族はいったん距離を取る
- 落ち着いたら、再び近づいて挨拶する
PDSAも、犬が四つ足を床につけた時点でほめ、報酬を与える方法を案内しています。【出典:PDSA「Basic training for puppies」】
遊びを始める合図と終える合図を作る
遊びの時間を短く区切り、「遊ぼう」「おしまい」などの合図を決めます。興奮が上がり切る前に終え、フード探しやマットでの休憩へ切り替えます。
落ち着いたら遊びを再開すると、「静かにすると楽しいことが戻る」という学習になります。

トイレトレーニングの進め方
体の小さな子犬は、トイレまでの距離が遠いと間に合わない場合があります。最初は生活範囲を限定し、寝床から近く、落ち着いて排泄できる場所にトイレを置きます。
基本の手順
- 起床後、食後、遊んだ後、寝る前にトイレへ誘導する
- 排泄できた直後に、その場でほめる
- 成功が続くまで行動範囲を広げすぎない
- 失敗しても叱らず、においが残らないよう静かに片づける
RSPCAも、排泄できた直後に毎回ほめ、失敗を罰しない方法を推奨しています。【出典:RSPCA「How To Toilet Train Your Puppy or Dog」】
急に失敗が増えた、排泄姿勢を取りにくい、元気や食欲にも変化がある場合は、しつけの後戻りと決めつけず受診してください。

甘噛み・噛み癖への対応
子犬の甘噛みは、遊び、探索、歯の生え変わりに伴って見られる行動です。手を使ってじゃらすと、手をおもちゃとして覚えやすくなります。
手や服を噛んだら動きを止め、遊びをいったん中断します。落ち着いたら、十分な大きさの犬用おもちゃへ誘導し、おもちゃを噛んだことをほめます。
唸る、強く噛む、ブラッシングや抱っこのときだけ噛む場合は、恐怖や痛みが隠れている可能性があります。無理に押さえず、まず獣医師へ相談してください。
散歩とハーネスの練習
ハーネスは室内で慣らす
最初から頭や足を無理に通さず、ハーネスを見たらおやつ、鼻先を近づけたらおやつ、短時間着けたらおやつという順番で進めます。
ポメラニアンは気管虚脱が見られる犬種のひとつです。米国獣医外科学会は、気管虚脱のある犬では首につけるリードではなく、体を支えるハーネスを使用するよう案内しています。【出典:American College of Veterinary Surgeons「Tracheal Collapse」】
ただし、ハーネスを着ければ気管虚脱を予防できると断定はできません。咳、ガーガーという呼吸音、運動を嫌がる、舌の色が悪いといった症状があれば、散歩練習を中止して受診します。
引っ張らずに歩く練習
- 静かな室内で、飼い主の近くにいることをほめる
- 一歩進み、リードが緩んでいたらほめる
- 数歩ずつ距離を延ばす
- 屋外で引っ張ったら、強く引き返さず止まる
- リードが緩んだら再び進む
RSPCAも、犬が緩んだリードで歩いているときに報酬を与え、リードが張る前に止まる方法を案内しています。【出典:RSPCA「Train Your Dog to Stop Pulling On The Lead」】
ジャンプを減らし、四つ足の行動を増やす
ポメラニアンでは膝蓋骨脱臼が見られることがあります。これは主に発達に関係する整形外科疾患であり、家庭でのしつけだけで予防できる病気ではありません。【出典:Merck Veterinary Manual「Patellar Luxation in Dogs and Cats」】
一方、滑りや転落を減らす環境づくりはできます。床へマットを敷く、ソファから勢いよく飛び降りる状況を管理する、飛びつきではなく四つ足での挨拶を教えるといった対応です。
急に後ろ足を上げる、スキップする、痛がる場合は、運動やしつけを続けず獣医師へ相談してください。気管や膝の注意点は、ポメラニアンがかかりやすい病気と健康管理でも解説しています。

ブラッシングと歯みがきに慣らす
ブラッシングは一部分から始める
ブラシを見せる、体へ軽く触れる、一回とかすという小さな段階に分け、その都度ほめます。最初から毛玉を引っ張ったり、長時間押さえたりしません。
PDSAは、グルーミングを若いうちから導入し、ゆっくり進め、犬が不安やストレスを示したら止めるよう案内しています。【出典:PDSA「How often should you groom your pet?」】
毛玉、赤み、脱毛、におい、痛がる場所がある場合は、無理に家庭で処理せず、獣医師やトリマーへ相談します。
歯みがきは口元を触る練習から
いきなり歯ブラシを口へ入れず、口元に触れる、唇を少しめくる、ガーゼや指ブラシへ進むという順番で慣らします。人用の歯みがき剤は使わず、犬用を選びます。
嫌がる犬を押さえつけると、次回から口元へ触れられること自体を避けるようになります。短い練習を続け、難しい場合は獣医師へ相談してください。

留守番は数秒から練習する
飼い主の姿が見えない状態に、短い時間から慣らします。
- 犬がベッドやマットで落ち着いているときに少し離れる
- 不安になる前に戻る
- 数秒から数分へ少しずつ延ばす
- 出発と帰宅を大きなイベントにしない
- 留守中の安全な室温を保つ
RSPCAも、犬が怖がらない範囲で留守番時間を徐々に延ばし、不安が出たら前の段階へ戻すよう案内しています。【出典:RSPCA「How to Train Your Dog to Stay Home Alone」】
知育玩具を使う場合は、誤飲しない大きさを選び、飼い主がいる状態で安全に使えることを確認します。留守中の吠え、破壊、よだれ、排泄、歩き回る行動が続く場合は、専門家へ相談してください。
ポメラニアンのしつけで避けたいNG対応
吠え声に大声で対抗する
警戒や興奮で吠えている犬へ大声を出すと、刺激が増えます。原因となる音や視界を調整し、静かに戻れる行動を教えます。
吠えるたびに抱き上げる
安全確保が必要な場面を除き、吠えるたびに抱くと、吠えと抱っこが結びつく場合があります。距離を取り、地面で飼い主へ意識を戻せた瞬間をほめます。
毛玉を一度にとかそうとする
痛みを伴うブラッシングは、ブラシだけでなく人の手への警戒にもつながります。毛玉を無理に引っ張らず、状態に応じて専門家へ相談します。
痛みや恐怖で従わせる
米国獣医行動学会(AVSAB)は、しつけと行動修正には報酬を中心とした方法だけを使い、痛みや恐怖を与える方法を使用しないよう勧告しています。【出典:AVSAB「Humane Dog Training Position Statement」】
チョークチェーン、電気刺激、強いリードショック、押さえつけ、大声による威圧は使いません。

年齢別に見るしつけのポイント
子犬期(〜6か月ごろ)
社会化、トイレ、甘噛み、ブラッシング、歯みがき、ハーネスへの慣らしを優先します。吠えが習慣になる前に、物音のあとマットへ戻る練習を始めます。
思春期(6か月〜1歳半ごろ)
周囲への反応が強くなり、呼びかけが届きにくい場合があります。反抗と決めつけず、刺激から距離を取り、室内でできる段階へ戻します。
成犬期(1歳半〜7歳ごろ)
吠え、散歩、留守番など生活上のルールを維持します。運動だけでなく、知育玩具や短いトレーニングで頭を使う時間も作ります。
シニア期(7歳ごろ〜)
聴力、視力、気管、膝、歯などの変化で、反応が変わることがあります。できていたことを失敗しても叱らず、急な変化は受診してください。
専門家に相談したほうがよいケース
次のような様子がある場合は、家庭だけで対応を続けないでください。
- 唸る、歯を当てる、本気で噛む
- 留守番中の吠えや破壊が続く
- 人や犬へ強く飛びかかる
- 音や場所に強くおびえ、おやつも食べられない
- ブラッシングや抱っこを急に嫌がる
- 咳、呼吸の異常、舌の色の変化がある
- 急に足を上げる、スキップする、歩きたがらない
咳、痛み、皮膚や被毛の異常が疑われる場合は、トレーナーより先に獣医師へ相談します。病気が除外されたあと、必要に応じて行動診療を扱う獣医師や、報酬を中心とした方法を使うトレーナーにつないでもらいましょう。
まとめ
ポメラニアンのしつけでは、注意深さと学習能力の高さを、落ち着く行動へつなげることが重要です。
- 吠えをゼロにするのではなく、気づいたあとに戻る行動を教える
- インターホンの音量や窓からの視界を調整し、吠える前に対応する
- 飛びつく代わりに、四つ足での挨拶やおすわりを教える
- トイレは生活スペースの近くに置き、成功直後にほめる
- ハーネスは室内から慣らし、首への強い圧迫を避ける
- ブラッシングと歯みがきは一部分、数秒から始める
- 留守番は不安になる前に戻り、少しずつ時間を延ばす
- 咳、歩き方、触られ方の急な変化は、しつけより受診を優先する
ポメラニアンは、人の反応をよく見て学びます。大きな声で行動を止めるより、静かにできた一瞬を見つけて報酬につなげる。その積み重ねが、にぎやかな反応を生活しやすい行動へ変えていきます。
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